地下水の熱源利用と地盤沈下対策

Utilizing groundwater as a heat source and measures against land subsidence

大都市圏の地盤沈下問題

・大都市圏のほとんどは、過去の地盤沈下の大きな被害から、現在も厳しい揚水規制が継続しています。地盤沈下の原因は、地下水位の低下によるものですが、現在は揚水規制により地下水位が回復しているものの、一度起こった地盤沈下は、粘土層の収縮(脱水・圧密)の特質から、ほとんど回復していません。



全量還水井戸の実現

・汲上げた地下水の熱だけを利用し、全量を元の帯水層に還水することができれば、広域的な地下水位の低下は起こらず、地盤沈下影響の回避が可能と考えられます。

・全量還水実現には、還水用の井戸の目詰まり防止が懸案です。また、帯水層蓄熱では、季節によって揚水・還水を切り替えるので、同じ仕様の一対の井戸で構成することが望ましいと考えます。

・沖積平野では、長い歴史の中で繰り返された海面の上昇・下降により、粘土層と砂礫層(帯水層)の互層が形成されます。先の環境省技術開発・実証事業※1においては、水質の安定した地上から2層目、3層目の帯水層を利用しました。一方、そこに含まれる地下水は、還元状態で鉄分を多く含んでおり、空気に触れさせない構造の井戸や地下水配管系を開発することで、鉄イオンの酸化による井戸の目詰まりという課題を解決しました。

・揚水規制区域でもある大阪うめきた地区において、2016年から18年まで実施した実証を通じて、井戸の目詰まり抑制の効果と地盤沈下影響を抑制できることを検証しました。

帯水層蓄熱システムとその運用


環境省CO2排出削減対策強化誘導型技術開発・実証事業
※1 帯水層蓄熱のための低コスト高性能熱源井とヒートポンプのシステム化に関する技術開発 実施期間:2015年04月~2019年02月
※2 複数帯水層を活用した密集市街地における業務用ビル空調向け新型熱源井の技術開発 実施期間:2018年10月~2021年03月

帯水層蓄熱に関する技術開発ポイント

先の環境省技術開発・実証事業では、これまで目詰まりの原因となっていた地下水の化学変化による固形物の生成を抑えるために、利用可能な帯水層を峻別し、不透水層の封止を確実に行うことで、地上付近の酸化した地下水の引き込みや、異なる帯水層の地下水混合を抑えることとしました。

・井戸の掘さくでは、孔壁の崩落を防ぐために用いられるベントナイトが、帯水層の透水性を損なうことから、これを使用せず掘削泥を積極的に帯水層に押し込まないリバースサーキュレーション法と呼ばれる工法を選定しました。また、井戸構築時の洗浄を徹底的に行うことで、地下水中の細粒分によるフィルタの目詰まりの防止に努めました。

正確な地盤情報に基づく井戸構造の決定・不透水層部分の封止




加えて、井戸自体を密閉構造にするとともに、地下水系統を運転停止に関わらず常時加圧状態に維持するよう、井戸内に注水弁を設け、圧力制御できる構造としています。

・気になる還水井の呑込み能力については、特に加圧注水を意識することなく、揚水井で生じた必要水量に応じた水位低下とほぼ同程度の水位上昇で揚水相当量の還水を長期安定して維持できます。



帯水層蓄熱用井戸の性能について

・先の大阪うめきた地区における揚水・還水実績を下記に示します。

・なお、2018年6月の北摂地震が起こる少し前から細粒分による井戸の目詰まりが進んでいましたが、再洗浄によりほぼ構築時の性能に復旧しています。

大阪うめきた地区での揚水・還水実績




・井戸の目詰まり状況について、運用実績の長いアミティ舞洲のシステムの状況を下記に示します。

・本実証では、長期間大量の地下水を揚水・還水することで、井戸の目詰まりに対する耐性を確認しました。2020年12月~2021年3月の間に井戸の1カ所のスクリーンで目詰まりが生じていますが、これは空気抜き弁の締め忘れによる酸素混入が原因と考えられます。この時は、直ちに排水を実施し、3か月ほど静置した後には井戸の性能が回復しています。


アミティ舞洲での井戸の目詰まり状況の推移